「じゃあ、名前教えてくれない?」
「え? ああ、私のですか?」
「そう。あ、俺はね、高山柾弘っていうんだけど」
「知ってます。さっき、免許証見たから。私は佐久間和美です」
「和美ちゃんね。じゃさ、『ショコラ』でなければ食べてくれる?」
「え、ああ。はい」
「じゃあさ、これ」
そう言ってお兄さんは携帯電話を出した。
「今は便利だよね。アドレスとかも赤外線で一発だし。……いい? 教えてもらっても」
「あ、……えっと。はい」
どうしよう。
なんて、気にするのもずうずうしいか。
私みたいな女の子、
誰も気にするはずなんかない。
お兄さんは、
ケーキの感想が欲しいだけなんだもんね。



