・・・
 あの子


 には、好きな人がいる……なんて。







 言えないよ。




「あいつは、僕を恨んでるはずですから」


 もう叶わないんです……と、小さく呟き、弥生は澪に背を向けた。











 次に聞いた声は、先ほどまでと違い、少し明るくなったように聞こえる。




 それが唯一、澪にとっての救いだった。











「……でも。誰かに悩みを聞いてもらうのって、案外スッキリするんですね」



 あたしが弥生君の力になれた。

 今までの事は、決して無駄じゃなかったんだ。











 そう考えると嬉しくて、澪は込み上げる涙をせき止めた。



















 そして、弥生は悪戯っぽく笑みを零し




「内緒ですよ?」



 と指で唇に触れた。



「うん」




「帰りましょうか」







 夕焼けの空に響く鐘の音は、いつかの昔散々聞いたメロディで。












 心のどこかで思ってた。





 大人になりたくない、と。