「あ、きた」
詠人がベッドから立ち上がった。
「噂をすれば、だね」
詠人はドアノブに手を掛けた。
彼は手首を捻り、
ドアを開いた。
そこにいたのは――…
「おぉ、こんにちは!」
嬉しそうに口元を綻ばせた
詠人によく似た男性がいた。
詠人がこのまま歳をとったら
こんな感じなのだろう。
右目の下には、特徴的なほくろがあった。
これは、詠人にはない。
やや細めだが
しっかりしている腕には、
お盆にのった2つのコップ。
「こんにちは」
私も立ち上がり、
詠人の父親に頭を下げた。
不思議と、初対面な気がしない。
詠人の父親は笑い、
テーブルにお茶を2つ並べた。
笑い方も、詠人に似ていた。
「どうぞ」



