「詠人ッ!」
私がそう声を上げた時には
彼は詠輝さんの胸倉を
乱暴に掴んで
拳を固めていた。
見たことのない、
獣染みた詠人の表情。
いつもの軽い笑顔など、
微塵も見えない。
詠輝さんはやけに冷静で
何も言わないけれど、
それが痛々しかった。
「話せッ!オレと珠輝のことをッ!」
詠人が至近距離で、父親に吠える。
詠人は思い切り声を出したからか
肩を上下させていた。
「…話すさ、もちろん」
詠輝さんの声は静かで、
「だから息子、離してくれないか」
いやに余裕っぽかった。
詠人は歯が削れるんじゃないかという程に食いしばり
パッと手を離し、
私の隣に戻った。



