詠人は
“それ”がいる場所を
強く睨み付けた。

普通は見えないから、
たまたまだと思うが
非常に険しい目だった。


「ったく――…」

詠人が溜め息を吐いた。

“それ”はビクリとしたように
その体を震わせて
見えなくなっていった。

「えーっと…生きてる?」

詠人は私の頬をむにっ、と引っ張った。

「生きてるに決まってる!虫がいて動けなかっただけ」

私はそう言って
詠人の頬に触れた手を払った。

だけど、握った手は
払ったりしなかった。

「そっか」

詠人が握った手に
力を込めた。…気がする。