未だに笑っている歩を見てチクリと胸が痛んだ。
もし、唇を奪ったのが本当だとして……。
歩にとってそれが笑い飛ばせるネタだなんて、切ない。
しかも好きな人とのキスの記憶がないなんて、悲しい。
この先もう二度とないかもしれないのに。
「嘘かどうかは……内緒」
「マジムカつく!」
私はお尻に敷いていた座布団を歩の頭に打ち付けてやった。
「絶対嘘だもん」
「どうだかね。あー酒臭いチューだった」
「そんなの信じないし」
「どうぞ。記憶飛ばした恵里が悪いんだし」
くーっ!
憎憎しい。
私は歩が手を伸ばしかけていた最後のクッキーを横取りしてやった。
彼の悔しそうな顔を見て、小さく満足する自分が情けない……。



