窓に影


 未だに笑っている歩を見てチクリと胸が痛んだ。

 もし、唇を奪ったのが本当だとして……。

 歩にとってそれが笑い飛ばせるネタだなんて、切ない。

 しかも好きな人とのキスの記憶がないなんて、悲しい。

 この先もう二度とないかもしれないのに。

「嘘かどうかは……内緒」

「マジムカつく!」

 私はお尻に敷いていた座布団を歩の頭に打ち付けてやった。

「絶対嘘だもん」

「どうだかね。あー酒臭いチューだった」

「そんなの信じないし」

「どうぞ。記憶飛ばした恵里が悪いんだし」

 くーっ!

 憎憎しい。

 私は歩が手を伸ばしかけていた最後のクッキーを横取りしてやった。

 彼の悔しそうな顔を見て、小さく満足する自分が情けない……。