窓に影


「覚えてないんだ。人のこと言えないじゃん」

 へへーん、と偉そうにしていた時。

 賢いこいつは、私以上の秘密兵器を隠し持っていた。

「うるせーな。人の唇奪っといて」

「は?」

 え?

 何?

 くちびる……うばった?

 使い慣れない頭をフル回転して思い出そうとするが、思い出せない。

 記憶をたぐり寄せる私を、憎らしい顔で笑う歩。

「あーあ、マジで響子さんには言えねえよなー。こんなこと」

「う、嘘だよ。絶対嘘! ひっかからないんだから」

 私の反応を見て、歩は爆笑し始めた。

 笑いすぎて、むせてしまうほどに。

「あー、腹痛え。酒って怖いな」

 これだけ面白がっているのだ。

 嘘に決まってる。

「嘘なんでしょ? そんなに笑わないでよ」