不機嫌な顔を向けた歩を無視して響子さんを見た。

「あの、響子さんっておいくつなんですか?」

「二十歳。大学生なの」

「歩とはどこで……?」

「歩が通ってた塾で講師のバイトをやってたの。今は別の塾で働いてるんだけどね」

 へえ、そうなんだ。

 塾の先生……。

 いやらしい。

「秋に偶然再会して、いつの間にか、ね」

「うん」

 私がいるんだから、見つめ合わないで。

 デレデレするんじゃないよ、歩。

 顔の筋肉を一生懸命働かせて、笑顔を作った。

「ねえ、歩、ちゃんと教えられてる?」

「ええ、まあ。結構鬼ですけど」

「お前の覚えが悪いだけだろ?」

「あんたが優しくないだけよ」

 いつものように言い合いになった私たちのやり取りを、響子さんは優しい笑顔で温かく見守っていた。