「じゃあ、お祭り行かないんですね…」


見るからに落ち込み、ぶぅと頬を膨らませる。

そんな矢央に、光が差し込んだ。



「行く行く。 祭りも、ちゃんと行くっつぅーの」

「飲みにも行くけど、まずは祭りを堪能しなきゃな」



永倉に続き藤堂は言うと、矢央の頭を撫でる。



「ほんとっ!? 私も行ける?」

「うるせぇと思ったら、病人や怪我人が何を騒いでんだ」

「土方さん!?」



騒がしさに駆けつけた土方は、あからさまに溜め息を漏らすと、ぐんっと矢央の頭を上から押さえつける。



「うぎゃっ! お、重い…」

「てめぇもさぼってんじゃねぇよ。 茶を出せっつってから、どんなけ経ってると思いやがる」

「土方さん、矢央さんを苛めちゃだめですよ。 呼び止めたのは、私たちですし」

「…総司、てめぇも寝てろと言っただろうが」



いくら暖かいからといって、療養中の沖田が布団から起き上がっているのは良くないと叱咤するも、沖田はクスクスと笑い飛ばしてしまう。



「大丈夫ですよ。 たかが、風邪なんですから」



その返事に、土方だけは切なげに眉を寄せたのだった。



話は戻り、祇園祭の話題である。



「ねぇ、土方さん! 私もお祭り行きたいです!」

「駄目だ」



祇園祭に行きたいと、土方の腕を掴みブラブラと揺さぶっていた。

だが、土方は許可を出さない。


「まだ残党がうろちょろしてんだぞ。 いつ奇襲をかけられるか分かっちゃもんじゃねぇ時に、祭りに浮かれてどうする」


「でもさぁ、土方さん。 矢央ちゃんだって頑張ってくれたし…」


池田屋後、怪我人の治療に寝ずに働いたのだから、褒美として祭りに参加も許してあげてほしい気持ちだ。


土方は、未だに腕を握る矢央を見下ろした。

目の下にうっすら浮かぶ隈、それを見て土方の心も揺れる。

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