「ただいま〜」

大学の後、バイトを終えて帰宅すると美味しそうな香りにお腹が鳴る。


「…おかえり」


キッチンから出迎えてくれた、長身のエプロン姿の男に笑いがこみ上げてくる。


普通は逆だよねって。


「ねっねっ! 今日はね、レジ失敗しなかったよ!」

「へぇ。 ちぃったぁ、成長したんだな」


リビングのソファーにカバンを置いて、まずは今日一番嬉しかったことを報告する。

何故か、これが最近の日課になりつつあった。


「明日は朝からだから、パンの作り方教えてくれるってさ!」

「ほお。 確実に不味いだろうな」


「……ムカつく」


せっかく人が楽しみにしてるのに、何よその言い方。

手を洗ってうがいして、手を拭う。


奴にムカついているんだけど、奴に言われたことを守っているあたし。

いやいや、手洗いもうがいも大切なことだから!


―――ポンッ。


「……ま、頑張れ」


すれ違い間際に、頭を一回撫でられて言われた言葉。


バッと振り返って見た奴は、何もなかったみたいに夕飯の支度に取り掛かっていた。


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