父は、朝から咳が止まらなかった。



心配した母が生姜湯を作って、父はそれをゆっくりと飲んでいた。



「お父さん、風邪かしら」



紫が台所で母に言うと、母は、



「あんな大きな人でも、たまには引くのねぇ」



と、呑気に笑っていた。



紫が居間をのぞくと、父は小さなちゃぶ台に覆いかぶさるように、背中を丸めて座っていた。



肺から絞り出したような咳が、痛々しかった。



紫は、父の背中をさすって、



「大丈夫?」



と繰り返すしかできない自分が、もどかしかった。