五年前― 紫は、両親と三人で長屋に住んでいた。 健康体が自慢で、がっしりした体つきの父が風邪を引いたのは、ある冬の日のこと。 その日はとりわけ寒く、 「雪になりそうね」 と母が白い息を吐きながら言っていたのを、紫は今でも思い出す。 (あのとき、早くお医者に見せていれば…) そんなふうに、何度後悔したことだろう。