院長は

無理には事情を聞くことはなかった

あなたの話せることを

話して欲しいと

私は自分がどこまで話すのか

話し始めるまでよくわからなかった

車椅子に座ったまま

目を閉じた

「……」

「いいにくいこともあるだろうが」

院長はリハビリ医からの報告を

かいつまんで私に話した

薬で朦朧としている夜中に行われた

担当医の行為

日々の絶望感から

私がそれを拒否しなかったこと

定期の診療中に

担当医の行為だと発覚したこと

舌にリングをはめこまれたこと

青年医師の計画した検査が

彼を追い詰めたこと

そのことで私が青年医師に

担当医の行為を告白したこと

その夜の事件の経緯…


快活な青年は私の告白を

簡潔にまとめて院長に報告していた

私は重い口を開いた

「そのとおりです」

「本当にそんなことが…」


院長は今にも

頭を抱えんばかりの勢いで

大きな机の上に肘をつき

両手で額を支えていた

私から彼の表情が見えなくなった

「…それで?」

「は?」

「それだけかね。彼が君にしたこと

は」

私は押し黙った

色々あったことを

話すべきなのだろうか


私が黙りこんだのを見た院長は

更に大きなため息をついて言った

「…あったんだな」

私はすぐには答えられなかった

しばらく沈黙が続いた

院長は不意に顔を挙げて

こちらを見た

「ま…私には話しにくいだろう…整

形の先生には打ち明けられたのだか

ら…彼に詳しい話ができたらして欲

しい…その件は私から先生に話を通

しておくから…いいかな?」

私は少し間を置いて小さく頷いた

「さて、君はこの件をどうしてもら

いたいかな…というか…今後どの

ようにするつもりなんだろうか?」

院長は

一番聞きたかったろうそのことを

単刀直入に聞いてきた

私は自分が

この一件をどう処理したいのか

考えた