危険な誘惑にくちづけを

 紫音は、ついこの間。

 フランスで、行われたパテシェの作品の品評会で。

 アメ細工部門の、上位に入ってた。

 紫音がアメで作った、繊細で、大胆なバラの花束は。

 ちゃんとしたプロのパテシェ達の間で。

 一位、とか二位とかって言うやつには、なれなかったけれども。

 特別賞をもらって、審査員のヒトにだいぶ、ほめられていたみたいだった。

 ……のに。

 紫音は、少し遠い目をして、苦笑した。
 
「……オレが作った最初のケーキを。
『リズミカル・ケーキ』って言ってたやつが、いたな」

「え?
 り……リズミカル・ケーキ?」

「ケーキのクセに、躍動感ありすぎ。
 ……今にも。崩れそうでコワいとさ」

「……ウソ。紫音でも、そんなケーキを作ったことあるんだ」

「……それは、まあ。
 最初のうちは、な」

「……で、味は……?」

「……食わせたやつには、結局。
 美味かったかどうか、教えてもらえなかった」

 へ、へえ。

 それは、また。

 きっと、たいへんな味のケーキだったに違いない。

 今では、すごく、おいしいのに。