――俺は。


愛とか、信頼とか、絆とかそういったものを一切信用していない。
信じて信じて、それでも最後には結局裏切られることを、アオは知っているからだ。

信じてるだなんて自分の気持ちを誤魔化す為の都合のいいイイワケだと。


アオの母親は執拗なまでにそれを、口にしていた。

外見だけは良かったアオの母親は、顔も知らない政治家の愛人としてアオを身篭った後、あっさりと捨てられた。

毎日毎日母親はアオの顔を見る度に、うわ言のようなそれを、そればかりを繰り返した。


『もうすぐ…もうすぐよ、きっと…きっと迎えにきてくれる…私たちを、迎えに来てくれるからね。信じてるから、大丈夫。信じていれば、大丈夫…そうしたらきっと、幸せになれる…だって誰よりもあの人を、愛しているの…私は誰よりも、愛されているんだもの』


脳裏に刻まれるように、刷り込まれるように。
鼓膜のずっと奥にこびりつくようにそれは、毎日アオの耳元で囁かれた。


まるで毒か呪いのように、アオを、母親を蝕んでいった。