◆ ◇ ◆


突如襲ってきた衝撃は一瞬で、気がつくとつい先ほどまで目の前に居たうららの姿はそこになく、気が遠くなるほど広い地下室にアオはひとりでいた。

静まり返ったその空間に自分以外の人の気配は全くない。


「……まいったな」


呟く声さえ頼りなく黒い闇に溶けて消える。

とりあえず当ても無く歩くより、来た道を引き返そう。
そう思いゆっくりと慎重に歩き出す。

風も無いのにランプの明かりがぼんやりと揺れた気がして、思わず目を逸らした。

ふと先ほどまでの温もりが消えた手を見つめる。
彼女は、どうなったのだろう。

ソラの為に泣いていたその姿が頭を過った。
せめて彼女だけでも外に出られると良いのだが。
薬を、彼の元へ。


『一度足を踏み入れたら、本当に欲しいものを手に入れるまで、戻って来れない』


そう言っていたブリキのきこり。
うららの欲しいものは手に入ったはずだ。
でも、もしもまだ、彼女もこの暗闇に閉じ込められているとしたら。

きっとまた、泣いているのだろうと思った。ひとりで――


「……くそっ」


思わず漏れた言葉と共にメガネのフレームを押し上げ、歩き出す。

こんな所にまともな出入口などありはしない。
きっと、今探すべきは――


ひとりの方がよっぽど気楽だと、そう思っていたのに。
いきなりわけの分からない世界に飛ばされて、始終誰かと共に行動していた所為か。

ひとりの静寂に、嫌な記憶まで暗闇に紛れて忍び寄った。