だけど姿のないそれは、うららにとって恐怖の塊でしかない。
できればもう聞きたくないし、関わりたくないのが本音だ。

何も起こらないなら、それが一番いいに決まっている。
そして関わらずに済むのなら、それが一番。


「……おまえひとりに、なにができんだよ」


頭の上から降ってくる、レオの呆れたような不機嫌そうな声。

うららは途端に、思いあがった考えがバレたことに恥ずかしくなり思わず俯いた。
かたく握っていた手が、わずかに震える。

それからはぁ、と吐き出された息がうららの前髪を揺らしたと思ったら。
頭のてっぺんに大きな手の平が落ちてきた。

うららは一瞬何が起こったのかわからず視線を彷徨わせる。
少しだけ乱暴なその温もりは、想像していたよりずっと、優しかった。


「おまえ意外と、勇ましんだな…そんなちっせーのに」


戸惑ううららの視界の片隅で、レオが仕方なさそうに笑うのが見えた。

あの、レオが。
それがあまりにも意外で、うららは思わず言葉を失う。


「はー、ったく。戻ればいいんだろ、戻れば。こんな薄気味わりぃトコ、長居できっかよ」


レオは面倒くさそうに言いながら進路を向きなおす。
うららも慌てて来た道を引き返すレオの背中を追った。

なんにせよ、戻ってくれるのなら良かった。
ひとりでどこかに行ってしまわなくて、本当に良かった。

ふいにレオがぽつりと一言だけ、本当に小さく零した。


「…妹が、いんだよ。おまえになんとなく、似てんのかもな」