「──ふざげんな! まだ半日も歩いていねぇんだぞ?! こんなもたもたしたペースで、一体いつになったら辿りつけんだよ…!!」

「出発したのが昼過ぎだったんだ、仕方ないだろう。それにもう薄暗い。暗くなった夜の、しかも得体の知れない森を歩くのは危険だと言っているんだ」


場所は、見つけたばかりの丸太小屋の中。
丸太が組まれた意外と頑丈なこの小屋は、おそらく外のブリキのきこりの家だろうと推測がついたが、アオはあえてそれは口にしなかった。

広くはないが、保存食もあったし幸い寝床もあった。
雨風も十分凌げる。

今夜はここで一夜を明かそうと提案したアオに、見事にレオが喰ってかかってきたのだ。


「行きたいならひとりで行けばいいだろう。別におまえがいなくなっても、困らない」

「……っ、こっちだってそれができるならハナからしてるわ…!!」


怒鳴り散らすように叫びながら、レオは小屋の扉を思い切り閉め外へと出て行く。
重たいドアの激しくぶつかる音が、室内に響いた。


「レオせんぱ…っ」

「放っておけ。この状況でふらふら出歩くバカでもないし、腹が減れば戻ってくるだろう」


言い捨てたアオに、うららはその顔に罪悪感と困惑の色を浮かべる。
それでも後を追うように小屋から出て行ってしまった。

その様子をアオが視界の端で見やり、息を吐いた。


「んもーアオはさー、カンジンなこと、省きすぎなんだよー」


仕方なそうに言うリオの言葉ををすべて無視し、アオは小屋の中にある簡単な水場や棚の中をチェックする為背を向けた。
ランプひとつのだけの灯りの小屋に、静寂だけが沈黙を埋める。

ブリキのきこりの声はいつの間にか、聞こえなくなっていた。