記憶の一部を失くし、取り戻す為にオズを目指している彼女。
少しずつ失くなるリオとは違って、いっぺんに失くしてしまった。
それはきっと彼女にとって、大事だったのだろう。大切だったのだろう。
取り戻したいのだろう。
だけど。
――だけど、思うんだ。本当に必要だったの? って。失くしてしまうくらいならいっそ、最初から要らないものだったんじゃないかって。
「でも、うーちゃんも、思い出すことに怯えてたり、思い出したくない記憶だって、あるでしょう?」
言ったリオに、うららはバツが悪そうな表情を見せ俯く。
自分で言っておいて、罪悪感でちくりと胸が痛んだ。
「でも……」
だけどすぐにうららは、まっすぐリオの瞳を見上げた。
その瞳に、強い意志と光を宿して。
繋いでいた手に力を込めたうららは、今度は最後までしっかりと、言葉にした。
「思い出さなきゃいいことなんて、きっとひとつも、無いと思うんです。覚えていないだけで、思い出せないだけで…無かったことには、ならない。できない。誰にも消せない。だってそれは脳だけじゃなくて、わたしの身体に、染み込んだ思い出だから。いいことも、わるいことも…全部今のわたしを作るものだから──」
少し揺れた、大きな瞳。
その気持ちは、きっと自分にはわからない。
リオの口元には自嘲にも似た笑みが浮かんで消える。
──だけど。
「だからわたしは、ぜったいに取り戻したい。思い出したい。大切な記憶を、…大切な人たちを」
だけどわかったことがあった。
――おれには大切な人が、忘れたくない人が、いないんだ。だからこんなに、空っぽなんだ。



