「知るって、そんなに大事なのかな。…必要かな。知らなくても生きていけるし、知らずに終わるものの方が圧倒的に多いんだ。モノ知らずなバカだって、なにも知らなくたって、周りなんか気にする必要ない。ひとりでだって生きていけるんだから」
理由もわからず、途方もない苛立ちが滲んでいた。
胸が抉られるような気さえした。
無意識に拳に力が篭る。
理由はわからない。
リオにはこの理由を知る、材料すら無いのだから。
「……でも…っ」
口を開いたのは、意外にも隣りにいたうららだった。
握ったままでいた手が、少しだけ震えていた。
「知識が、欲しいかどうかは、人によると思うんですけど…でも〝知りたい〟って思うのは、自分に必要だからだと思うんです」
リオの少し意地を張ったような態度に戸惑いながらも、だけどうららはリオとかかしを交互に見つめ、ゆっくり言葉にする。
メガネのレンズ越し、見上げるうららの青い瞳がリオを射抜く。
「リオ先輩が、どんな風にそれを抱えて生きてきたのか…わたしにはきっと理解なんてできないけれど…でもやっぱり、記憶が無いのは…大事な人を思い出せないのは、すごく、寂しいです。確かにあったものが、なくなってしまうようで…それって自分すら、信用できなくなる。すごく、こわい…」
最後は消え入るように小さく呟いた、うららの瞳が翳る。



