――今更だけど、ソラは…わたしが思い出せない記憶を、わたしと過ごしてきた時間を、知っているんだ。


それがいつからいつまでで、どこからどこまで知っているのかは、分からないけれど。

だけどそれは、カンタンに聞いちゃいけない気がしていた。
ソラの持つ記憶に逃げちゃ、いけない気がして。

この絵本の世界はうららを傷つけたりなんかしない、絶対的な味方のような…そんな勘違いをしていた。

だって、ヘレンが遺してくれたものだから。
ヘレンはいつだって優しくて、いつも誰よりも、うららの味方だった。
──だけど。


「……まるでこっちが…わたしが居た場所だって、言われてるみたいだった…」


ぽつりと呟いたうららにソラは哀しそうにわらって、うららの頬をやさしく撫でる。


「僕に答えられることなら、答えるよ…?」

「……ううん、まだ、いい。ソラがいるんだもん、…今はそれだけで、いいの」


半分意地を張るように言ったうららに、ソラがやさしく抱え込むように、抱きしめてくれた。
そっと押し当てられる耳元に、心臓の音が聞こえる。

なんて安心できるやさしい音。
その体温も、においも、音も。
ぜんぶ泣きたくなるくらい、心地よいものだった。


――ソラは太陽の匂いがする。いまわたしが、誰より何より信じられるもの。