「…え…」


――リオ先輩が──〝記憶障害〟?


それを今この場で急に言われても、どう反応していいか分からない。
隣りのソラを視界の端で盗み見ると、ソラの表情も戸惑いに揺れていた。


――記憶が3日しか保てないということは、3日前の記憶は忘れてしまうということ…?


「こんな冗談みたいな状況だ。先に知っておいた方が、対処しやすいだろう」


なぜだかは分からないけれど、アオの物言いには例えば心配だとか気遣いだとか…そういった優しさは、感じられなかった。


「だいじょーぶだよ」


明るく降ってきた声に、うららは思わず顔を上げる。
リオの眠たげでなにも捉えていないような瞳に、情けない顔したうららが映っていた。


「リセットされるのは1日ごとだし、生活にはあんまり支障ないよ」

「お前が関心ないだけだろ」


突如口を割って入ってきたのは、意外にもレオだった。
こちらにはまるで無関心だと思っていたのに。


「すべてに無関心だから、そんなこと言えんだろーが」


睨み付けるレオに、リオは全く物怖じする様子もなく口に薄い笑みを浮かべる。
作り慣れたような笑みだとうららは思った。


「だってぜんぶ、どうでもいいから」


その言葉により一層張り詰めた空気を感じる中、うららは思わず隣りのソラの手を握る。
ソラは小さく苦笑いを落として、それからそっと言葉を零した。


「……もしかしたら先輩たち、友達なのかな?」

「…え? めちゃくちゃ他人行儀だよ…?」


声を潜めて言ったソラに、うららもなるべく小さく返す。
それから未だ睨み合う先輩達に目を向けた。
少なくとも仲が良くないことだけは、確かだった。


「なんとなく、だけど…ごめんうらら、気にしないで」


ソラは曖昧に笑って再び視線を前に戻し、うららもそれに倣った。

それから誰ともなくまた、歩き出す。
ここでこうしていたも無意味だということは、誰もがわかっていた。


──どうして、わたし達なんだろう。どうして、この人達なんだろう。


思わずにはいられなかった。
この旅路の意味を、理由を、意義を。

歩き続ける視線の先、茜色に染まる空はまるで燃えているかのように赤い。


――夕日って、なぜか無性にはやし立てられているような気持ちになる。


それは迷子になった時の、途方もない気持ちと似ていると思った。