―――――――…


ゆっくりと意識が手繰り寄せられる。

響くチャイムの音。
継いで湧く、ざわめきと喧騒。

ここは…教室。
無意識にそう理解した。

むくりと顔を上げると、そこは一番窓際のうららの席。
真昼の日差しが降り注いでいる。 

ふとその手元に、馴染んだ一冊の絵本があった。
何度も読み返した為に少し古ぼけているけれど、大切な…。
大切な、魔法の絵本。

それにそっと手の平を寄せ、ずれていたメガネをかけ直し、窓の向こうの空を見上げる。
教室内の周りの会話から今がお昼休みに入ったのだとわかった。

おもむろに黒板の日付を確認する。


――…ソラが死んだ、翌日…


そしてうららが、屋上にいるはずの時間。

だけどうららはここにいる。
今ここに、こうして。


――戻ってきたんだ、現実に。──帰ってきたんだ。


再び見上げた窓の向こうの、青い空がじわりと滲んだ。
だけどこのぐちゃぐちゃの感情に名前なんてなかった。


「──珍しいね、居眠りなんて」


ふと隣りから聞こえてきた声に、うららは慌てて涙を制服の袖で拭う。

教室で誰かに話しかけられたことなんて無いので、内心驚いた。
ソラという幼なじみなんて居ないうららは、教室でずっとひとりだったから。