「この世界で僕は、たくさん嘘をついた。だけどひとつだけ、信じてもらえるとしたら──」


一歩、うららに歩み寄るその姿が、淡い光を放ちながら距離を縮める。

柔らかな黒髪がふわりと浮き上がり、その青い瞳にしっかりとうららを映す。


「君をとても大切なこと…誰よりも大切で、大好きなこと。それは決して嘘じゃない」


この世界に来てから、何度も。
ソラのくれる、優しくて愛しい言葉たち。

その言葉がずっとうららを守ってくれていた。


「君と過ごした十年間…僕は本当に、幸せだった。君は僕の大切なひと。これだけはどうか信じて。僕は幸せだったんだ、うらら…──君が居てくれたから」


その手がうららの手に触れ頬に触れる。
その何よりも馴染んだ温もりに、涙が溢れて止まらなかった。

そしてうららは、すべてを受け入れた。
ソラの青い綺麗な瞳に、自分が映る。


『わぁ、おそろい…! パパこのコ、うららとおそろいの目なのね』


初めて〝ソラ〟と会った日、うららは嬉しくてその小さな体を抱きしめた。
ソラと出会えたから、うららは自分の青い瞳を、少しだけ好きになれた。

あの日と同じように、だけどあの日とは反対に、ソラがうららを強く腕の中に抱く。


「──おねがい…いかないで、ソラ……!」


あの時…何度そう、願っただろう。
叶わないと知りながら。
だけど僅かな奇跡を願いながら。


――こんな時でさえわたしは、こんな言葉しか出てこない…やっぱりそれを、諦めきれないの。


そんなうららを諫めることはせず、止め処なく流れる涙を拭う優しい指先。


「──さよならだ、うらら…僕の大切な…お姫さま。いつかの未来で、また逢おう。その時はきっと、今度こそ、きっと…君を守る、〝王子さま〟になるから──」



そっと触れた唇が、うららとソラの、お別れだった。