◇ ◆ ◇


目の前に立つソラは、うららを真っ直ぐ見つめていた。
うららもまっすぐ見つめ返す。


――…やっと、思い出した。いちばん、哀しかったこと。辛くて苦しくて、この生すら投げ出してしまった、その原因を。その存在を。


「――ソラ…」


――あなただった。ぜんぶ、あなただったんだ。


「──うそつき…!」


堪え切れずに零れた言葉と同時に、うららの両目からは涙が溢れた。
ソラは哀しそうにそれを見つめたまま、何も返さない。

うららの記憶の中で、今目の前にいる〝ソラ〟の記憶は、最後の一瞬だけ。
うららが屋上から飛び降りたあの瞬間…手を差し伸べれくれたのは、紛れも無く今目の前にいるひと。

この世界で今までずっと、傍に居てくれたひとだ。
──だけど。


「…わたしには、幼馴染みなんて、いない…そうでしょう?」

「……そうだね」


「わたしの記憶に、あなたは居ない…あなたなんて、居ない。あなたのこと…思い出せなかったんじゃなくて…最初から、居なかったのね」

「………」


「わたしがずっと、思い出せなかったのは…」

「うらら」


泣きながら紡いだ言葉を、〝ソラ〟はうららと視線を合わせたまま遮った。
うららは紡ぎかけた言葉を押し留め、その言葉に耳を傾けた。