「…うららを連れていかせやしない」

「うるさい…! アンタ邪魔なのよ…!」


「お前はここで、消えるんだ」


ソラの居る壁際へと少しずつ確実に、西の魔女は距離を縮める。


「アタシはアタシの世界を手に入れる。ダレに生かされるでもない、自分の力で生きる世界を…!」

「生きる世界は選ぶものじゃない。僕たちが選べるのは、生き方だけ。生まれた世界でどう生きるか…生きていきたいか。それを見失わなければ、ひとは何度だって取り戻せる…やり直せるんだ」


――どう、生きていきたいか。わたしは一度それを放棄してしまったのに…そんなわたしにも、もう一度なんてあるのかな。もう一度願っても、いいのかな。


ソラはまっすぐ西の魔女を見据えたまま。
その身体が僅かに光を放っているようにも見えた。


「アンタだって嘘でしかうららを守れないじゃない…! アンタはアタシ達とは違う。願いが叶って、ここにいる。だったらもうアンタこそ、在るべき場所へかえりなさいよ…!!」


怒りの滲む声に共鳴するように、渦巻いていた黒い力が振り上げられる。
その力の矛先にいるのはひとりしかいない。

恐怖で背筋が凍り、声にならない悲鳴が漏れた。

この感覚を、知っている。
失う恐怖。
無力な自分、残ったのは後悔──


――もう二度と、ソラを失いたくない。


守れるのなら守りたかった。
失わずに済ものなら…取り戻せるのなら──

それだけが真っ白な頭を過ぎった。

無意識に立ち上がったうららは、西の魔女の背中目がけて駆け出していた。


――ただ黙って見送るのは、もうイヤなの……!


「……っ、うらら!!」


勢いのままに自分の体ごと、西の魔女へと飛び込む。

ソラと視線が交差してソラが咄嗟にその手を伸ばすけれど、うららはとろうとしなかった。
今この手を、離すわけにはいかなかったから。

あの時と同じ。
屋上から飛び降りようとした、あの時。

ソラはいつだってうららを助けようとしてくれる。
その手を差し伸べてくれる。
うららもそれに、報いたかった。

青い空を背負ったソラが、顔を歪めてその手を伸ばす。
泣きながら叫ぶ声にうららは笑った。


「大丈夫…っ、だって、この世界は…!」


西の魔女とうららの身体は空へ…そして地上へと吸い込まれる。
ここに来た時と同じだ。



青い空の向こうに、この世界があった。