「要らないものは切り捨てて、そうやって〝忘れて〟きたのはおれなのに…ずっとそうやっておれは、生きてきたのに。ここまできて忘れること、忘れられてしまうこと、初めてこわいと思った…今感じるこの想いすら、無かったことになってしまうなんて──かなしい。
だけど…だけど、うーちゃん。覚えていてくれる人がいるなら、それは、失くならない。無かったことには、ならない。何よりおれ達は忘れるのに覚えている人がいる。それって今までのおれとは逆の立場で…やっとおれ、分かったんだ」


そっと、その瞳に再び月の光とうららが映し出される。


――なんて情けない顔してるんだろう、わたし。


そんなうららにリオは柔らかく笑って、その手がやさしくうららの頬に触れた。


「忘れないで…うーちゃん。せめて、君だけは。忘れてほしくないんだ。ここでの日々は、大事だった。大切だった。おれの我がままだって分かってる。おれに言われたくないかもしれないけど…だけど誰も覚えていなかったら…覚えている人がいなくなったら、本当になくなっちゃう。記憶も思い出も何もかも。確かにあった繋がりも、すべて。…それが一番、哀しいんだ」


小さな叫びと共にその瞳から月の雫がぽたりと零れ、月明かりを濡らした。
願いの雫はゆっくりと真っ白な夢へと吸い込まれる。

その夢に星を降らせられたらいいのに。
そんな夢みたいなことを思ったけれど、ここは魔法の国だから。


――わたしに魔法が使えるなら、叶うまで、届くまで、星を降らせ続けるのに。


魔法も願いを叶える力もないうららは、今はただ強く、温もりを繋いだ。