「──では僭越ながら、ボクがオズの宮殿までご案内いたしましょう」
言った門番の言葉と同時に一番奥の鉄の扉が音もなく開く。
その隙間から緑色の光が徐々に溢れて、やがて室内を覆い尽くした。
「ここより先は、エメラルドの都――偉大な魔法使い・オズが栄華を極めし至宝の都です」
どこか誇らしげに凛と響く声で門番が言う。
薄く目を開けながら促されるままに一歩外に出ると、扉の向こうはメガネを通してでも眩むほどの光が溢れていた。
エメラルドの都の名に相応しく、通りに面して並ぶ美しい建物も舗装された大理石の道も空も風も日差しさえも、すべて緑の色に染められた都。
不思議な光景が目の前に広がっていた。
…だけどひとつだけ、気にかかるのは――
「…どうして、人がだれも居ないんだ…?」
一番にそれを口にしたのはアオだった。
だけどそれはおそらく誰もが抱いた違和感。
こんなに栄華と光で溢れているのに、見渡す限りに人の姿は見当たらない。
声も音もほとんど無い町というのがこれほど静かだとは知らなかった。
先頭を行く門番は振り返ることなく答えた。
「今この世界はとても不安定で、このエメラルドの都は、その影響を一番受けやすいのです。一時みな、ここを離れているんです」
それは見た目相応にすらみえる小さな声で、頼りなく不安の滲む声だった。
音も人の声すらないエメラルドの都は、輝きだけがどこか虚しく溢れていて寂しさを漂わせていた。