―――――――…


淡い光の中、差し伸べた手の触れた指先に温もりを感じた。

瞼を押し上げるとすぐ目の前でレオが少し呆れた顔で笑っている。
ゆっくりとうららの身体が地面に着地し、レオの手を取ったままその顔を見上げた。


「…なんだよ、やっぱ泣いてんだなお前」

「……、レオ、せんぱ…っ」


繋いだ手を握り直す。
いろんな感情を押し退けて、あの笑顔が浮かんだ。


――伝えなきゃ。ちゃんと言葉にして届けなくちゃ。約束、したから。


「ゆ、いちゃんが…レオ先輩に、伝えてって…わたし、頼まれたんです」


うららの口から出てきたその名前に、レオの瞳が丸く見開かれた。
繋いだ手に強く力が込められる。
それでもうららは目を逸らさず、その手を離さずに続けた。


「もう、いいよって…待ってなくて、いいよって。今度はゆいちゃんが、呼ぶから…だから、レオ先輩…レオ先輩は、自分の道を──」


そこでうららの言葉は最後までカタチになることなく、レオの腕の中に吸い込まれた。
うららの体ごと、ぎゅっと強く、押し込められていた。


「レオ、せんぱ…」

「…いい。今はもう、いい」


力強い腕がすべてを包み込む。
震えながらも零さないよう、力を込めながら。


「お前が、戻ってきたから…今はそれで、いい。あとは全部、これから考える」


小さな声が頭上から落ちてきて、涙が込み上げた。
震えるその大きな背中をうららも精一杯の力を込めて、抱き締め返した。
溢れたのは哀しみだけじゃなかった。

震えている。
泣いている。
鼓膜も心臓も身体も心も、ぜんぶ震えてやがて一筋の光を放つ。

目を向けた先のずっと向こうまで、見慣れた景色が広がっていた。


「……金色の、道…」


その金色の道はいつかと同じように、自分の足下から伸びていた。

そしてうららの足には、懐かしい銀色の靴。
記憶の中の形とぴたりと重なる。


「…そっか…ずっとここに、あったのね…」


しまいこんでいた記憶と、願いの中。
そしてまたうららを、導いてくれる。 


「…行こう」


レオが確かめるように口にして、うららも強く頷いた。
リオも、アオも、ソラもみんな居る。
だから、みんなで。



行こう───オズのもとへ───