◇ ◆ ◇


涙が溢れて止まらない。
止められない。

小さな女の子の涙が、まるで自分に乗り移ったみたいだった。
ただすべてが哀しくて、苦しくて…胸が押し潰されてしまいそうで。

この痛みを、知っている。
絶望にも似た、この痛みを。


『──…あーあ』


ふいに頭に響いた、心底つまらなそうなその声は。


『油断しちゃった。まさかアタシが、あんなヤツらにヤられるなんて…こんな予定じゃなかったのに、あたしの先視もまだまだね』


───東の魔女。


顔を上げたうららと向かい合うように、東の魔女はすぐ目の前でその赤い瞳を緩く細めた。

状況を理解するよりもはやく、その光に溶けるような透けた身体に。
心が先に理解した。


『この世界は願いが強ければそれだけ、力を得る世界。アタシの願いがアイツらに負けるなんて、心外もイイトコだわ』


どこか吹っ切れたような、毒気の抜けたその笑み。
空になったその両手。 


「…あなたの…叶わなかった願いは、どこへいくの…? あなたの、その思いは…」

『…さぁ。アタシには、わからないわ。だけど』


もうその身体の殆どが、光に溶けかけていた。
目の前に在るのに、声が遠ざかる。
だけど東の魔女は怯むことなくわらった。


『永遠に叶わないかもしれない。だけどアタシじゃないダレかが、叶えるかもしれない。アタシの願いはアタシだけのものじゃないから。うらら、あなたもそうでしょう? 願いがひとつである必要なんか、どこにも無のよ。
──サヨナラ、〝ドロシー〟。あたしは先にいくわ』


最後に冷たい笑みを残して、その姿が光に消えていく。
その光を見送って。


――…わたしも、帰らなくちゃ…


ちゃんと届けなくちゃ。
あの言葉を、想いを。
こんなにも自分を呼んでる、声がきこえるから。
今度こそあの手を、とらなければいけない。


――わたしはわたし自身と、大事な想いを託してくれた人の為に──