レオが呟くのと同時に、その手に力を込める。
魔女の首元の黒いチョーカーを引きちぎり、それについていた何かをぐしゃりと握り潰したその瞬間。

レオのその拳から光の矢が弾けるように溢れ出し、パリン、と何かが音を立てて壊れた。
それと同時に、魔女が甲高く悲鳴を上げた。

目の前で魔女の身体が光を放つ。
そしてその身体が輪郭を徐々に失い、空へと溶けていった。
魔女の消滅と共に降り注いでいた雨は止み、濡れた大地に光の粒が降り注ぐ。

レオがゆっくりと空を仰ぎ、リオとアオもそれに倣った。

呆気ないくらい一瞬だった、東の魔女の最期。
光に溶けた、空へとかえった最期のその瞬間だけは、綺麗だとそう思えた。
それが正しい感情なのかは、誰にもわからなかったけれど。

そしてレオが虚空を見つめたまま、手を差し伸べる。
雲間からは光が差し込み天使の梯子がいくつも地上へと光を下ろしていた。
レオはその下で、光を浴びながらまっすぐ空を見上げている。

その光景は、あまりに綺麗で。
誰ひとり言葉を発せられずにただ見守った。


「……──うらら」


空を仰ぎ右手を差し出したまま、レオが小さく、だけどはっきりと名前を呼んだ。

初めて聞くその声音は、やさしくどこか甘い響きを孕み、その声が彼女の名前を呼び続ける。
雨に濡れたその輪郭が、降り注ぐ光で淡く瞬いていた。


「…うらら、はやく…はやく戻ってこい、バカ…オレの声、聞こえてんだろ…?」


レオの表情はよく見えない。
その体から滲む金色の光に、輪郭さえも淡白く滲む。

だけどなぜか、泣いているようにも思えた。