真実を知らされないまま、ゆいは夢の中に落とされる。
落とすのは、オレだ。
『お兄ちゃん、ゆい最近ね…いつの間にか眠っちゃってて…なんだか、こわいの…』
『……こわいことなんて、なんもねぇよ。ゆいは今は、寝るのが仕事みてぇなモンなんだから、眠い時は眠っとけ』
『なにそれ、ゆい赤ちゃんじゃないもん!』
『いいからほら、もうすぐ点滴の時間だぞ。お前キライだろ。…寝てる間に、終わってるから』
『──でもゆい、眠るのが、こわい…このまま目を覚まさないんじゃないかって…もう二度と、パパにもママにもお兄ちゃんにも、会えなくなっちゃうんじゃないか、って』
次第に重くなる瞼を必死に押し留めながら、その虚ろな視界にオレを映して。
ゆいの小さな手が、オレの手を握る。
必死に訴えるように、祈るように。
ゆいはオレにすがった。
『だからお兄ちゃん、呼んで…ゆいの名前をたくさん呼んで、ゆいをちゃんと、起こしてね。ぜったいぜったい、約束よ。ゆい、絶対にお兄ちゃんの声だけは、聞き間違えたり、聞き逃したりしないの。だってお兄ちゃんの声はいつもまっすぐ、ゆいの心まで届くから…お兄ちゃんが呼んでるから行かなくちゃって、思うから。お兄ちゃんはゆいの、太陽なんだもん。だから明日も、明後日も。ゆいを絶対、呼んでね』



