『魔女たちがこの世界に干渉し始めたんだ…この世界への干渉は、うららへの影響も、大きい。うららを導く道が不安定なのは、きっとそのせいだよ…』


魔女達の干渉。
うららへの影響。

ここまでの道がやたら険しかったのは、そのせいだということか。


「…まぁ、とにかくそんなとこ居ないで出てこいよ」

『…え…』


「こんなとこで話すより危害加える気ねぇんならあっちで話せよ」

『う、でも、ボク…その…』


正体もバレ言葉まで交わしているというのに、そのライオンは一向に木の影から姿を現そうとしない。
しかも何やら歯切れの悪い返事に短気なレオは既に眉間に皺を寄せていた。


「いいから出てこいよめんどくせーな! 腹減ってんだよオレは!!」

『だ、ダメだよレオ…! ボクはこんな姿のくせに、こんな性格だから…人と上手く、話せないんだ』


「どうせ他の奴らには見えねんだろ?!」

『う、うららには、…見えてしまう。レオはもう、うららに触れたでしょう?』


――触れた? ああそういや昨日のアレか?


『うららをこわがらせたくないんだ…うららに怯えた顔をされたら、ボクはショックで胸が張り裂けて死んでしまうよ』


――そんなデカい図体をしてなにを大げさなことぬかしてやがる。


いい加減レオの苛立ちがピークに達しそうだったその時──


「レオ先輩…? なにか、いるんですか…?」


本人登場。
突如現れたうららの声にライオンはあからさまに動揺し、慌てて頭を太い木の根っこに突っ込んだ。


――いやだから隠れきれてねんだけどよ。


すぐ傍まで来たうららはレオが先ほどまで話していた方角に視線を向けるけれど、ライオンの姿はまだ見えてはいないようだった。
何の反応も示さない。


「あー…、なんだ、その…また、住人? てやつが、居たんだけどよ…」

「やっぱり…! レオ先輩誰かと話してるみたいだし、次は順番的にレオ先輩かもね、ってちょうど話してて」


警戒心の緩い様子から察するに、かかしもブリキのきこりもそこまで加害的ではなかったのであろうことが推測される。


――そうなると、いきなりライオンは…確かにビビるかもな。オレもビビったし。


「どんなひとですか? わたしにも声、聞こえるのかな…?」

「ああ、多分な。姿も見えるってよ」


『レオ!!』


レオの言葉を窘めるように草むらから飛び出した声は、意外にも森全体に響くほど大きなもので。
うららは予想外のその声に、びくりと体を跳ねさせた。

唸り声すら混じる咆哮。
それは獣の、まさにそれだった。