見間違いでないとするなら。
というかあんなもの、見間違いであってほしいのだが──


「──ライオン…?」

『ひいぃぃ…!』


「?!」


レオの落とした呟きに返ってきたその的外れな声に、思わず持っていた棒を構える。

なんだ今の間抜けな悲鳴は。

明らかに、影の方から…さっき見たライオンの方から聞こえた気がした。


『ご、ご、ごめんなさい、何もしないからぶたないで…!』

「……あ?」


『だ、誰かと話すのなんて、すごく久しぶりだから…な、なかなか声が、かけられなくて…』

「じゃあ、やっぱ後ついて来てたのお前か」


『ご、ごめんなさい…!』


その気弱な口ぶりになんだかいろいろ気が抜けて、ため息と共に構えていた腕を下ろす。
ライオンはそれを見届けてから、隠れていた木の幹からわずかに顔を覗かせた。
キラリと暗闇から光を発するふたつの猫目。


『や、やぁ、レオ…逢えて良かった。ボクだけ逢えなかったら、どうしようかと思った』

「……そーかよ」


『こ、この場所は安全だから、大丈夫だよ。今日は皆、ゆっくり休んだ方がいい』

「……」


『君たちのペースなら、明日には森を抜けられる。だけど、気をつけて…この森を抜けたところには、おそろしい獣が、いるみたいなんだ』

「……おそろしい獣…?」


あたりの様子をを伺うように声を潜め、ライオンはこくりと頷いた。