一本道を早足で上りきり、山小屋に到着。

サックスの音色は確かにここから出ている。

人がいるのは確かだ。

ガチャ

わざと音を立てて山小屋のドアを開けると、演奏はストップした。

靴箱へは入れられず投げ出されている、女物のスニーカー。

私もここまでの道ですっかり濡れてしまったスニーカーを脱ぎ、その隣に並べた。

濡れた靴下で歩くと、無垢材の床に足跡が残る。

着ている雨がっぱから水が滴る。

少し緊張して、軽く深呼吸。

肝だめしで訪れた夜より木の香りを強く感じた。

部屋のドアをゆっくりオープン。

「……先生」

楽器を抱えてこちらを向いていたのは、やっぱり、松野だった。

「松野、よかった……」

安堵で一気に疲れが湧き出す。

よかった。本当に、よかった。

私は濡れた靴下と雨がっぱを脱ぎ、適当な場所に広げて干す。

持ってきていたタオルで顔と足を拭き、携帯を取り出す。

俊輔に連絡を入れ、すぐにでも松野と合宿場へ戻るべきなのだろう。

でも、無理に連れ帰るより、まずは話を聞こうと思った。

「松野」

「はい」

「どうして逃げ出したりしたの?」