この合宿場の施設で探してない場所といえば、あとは肝試しに使った山小屋だけ。
木々に囲まれた一本道の入り口は、あの夜以上に不気味な雰囲気だった。
一本道の辺りは幹の細い木々が植えられており、枝を広げ葉を繁らせている樹冠が風に煽られよくしなっている。
幾本もの木々がうごめく様は、ますます異世界への入り口のよう。
ヒュールルルル……
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、風が弱くなったとき。
この「自然の音」とは明らかに違う音が耳に入った。
音、というよりも、音色だった気がする。
なんだろう、これ。
楽器?
「まさか!」
私は一本道へと走った。
一本道は木に覆われている分、雨風がしのげて歩みを進めるのが楽だった。
しかし、葉がよく降ってくる。
見上げると、暗い空を梢がせわしなく動き回っている。
ギリギリ、ミシミシと、聞いたことのないような危うい音がする。
今にも木が折れてしまうのではないか。
純粋に、怖い。
霊的ではなく、物理的な恐怖が込み上げる。
バサッ、バサッ、ガガガガ……バサッ
とうとう折れたと思われる枝が、一本道へと降ってきた。
葉がびっしり繁っているため、枝の太さまではわからない。
これが自分に当たっていたら……。
危機感はだんだん募っていって、私は先の道を急ぐ。
木々のざわめき。
雨の音。
また一瞬風が止んだ時、今度ははっきりと「音色」が聞こえた。
濁ったような、でもしっかりとした、重い音。
この音は……サックス?



