風が強くてまっすぐ歩けない。

雨に打たれて顔がぐちゃぐちゃに濡れている。

あの二人が部屋に来たのが化粧をする前でよかった。

もし施したあとだったら、水で落ちたマスカラが目に入ったりして大変だったと思う。

何かはよくわからない、フェンスに囲まれた白い箱のような施設のあたり。

駐車場周辺。

地上の敷地を歩いてみたが、松野は見当たらない。

やはり自力で帰ろうとし、合宿場を出てしまったのだろうか。

歩いてこの山を降りるなんて、無謀すぎる。

公共交通機関のある人里まで、何十キロもあるのだ。

それでもここを出てしまうくらい、苦痛だったということなのか。

建物の屋根のあるところで、できるだけ雨が当たらないように携帯をポケットから取り出した。

俊輔からの連絡はない。

ビヨォォォォォ……

バサバサバサ……

溢れんばかりの木々から飛んでくる葉や雨粒が、容赦なく私の体に打ち付ける。

松野は雨がっぱなんて持っていないはず。

じっとしているわけにもいかないと、私はまた足を進めた。