5日目、朝。

事件は誰もが眠っている間に起こった。

「松野がいない?」

松野とケンカ中の二人が私と小谷先生の部屋を訪れたのは、午前6時半の少し前。

ちょうど朝イチの講師ミーティングに行こうとしていたところだった。

二人は血相を変え、ひどく慌てた様子。

「さやか、昨日みんなが寝る時まではちゃんといたんです」

「今朝起きたらいなくなってて、荷物も全部なくなってて」

「電話してみたんですけど、携帯も電源切ってるみたいで……」

二人と同じ部屋にいるのが辛くて、どこかに隠れているのだろうか。

それともまさか、この天気なのに、外へと逃亡したのだろうか。

情けない限りだが、私は頭が真っ白になった。

こんな時、どうしたらいいのだろう。

私が固まっていると、先に小谷先生が言葉を発する。

「南先生に報告して、私たちで松野を探すから。あなたたちは時間通り食堂に集合しなさい」

「でも……」

「大丈夫。このことは、まだ他の生徒には内密にね。協力してほしい時は声をかけるから」

「はい、わかりました」

二人は大きくうなずいて、自分たちの部屋へと戻っていった。

「さて、佐々木先生。行こうか」

「……はい」

二人の話を聞いて、私は何をどう判断していいかわからなかった。

何も言えなかった。

一方で小谷先生は、不安な二人に大丈夫と言って微笑み、速やかに判断して指示を出した。

彼女のリーダーシップを目の当たりにして、私はまた自分の無力さを知った。

悔しい。

私もそうなりたい。

自分で考えて自分で判断して、正しく行動できる人になりたい。



南先生の部屋で講師一同に松野がいなくなった旨を報告。

南先生は心配を滲ませるも慌てた様子は見せず、いつものトーンで言った。

「生徒を混乱させないために、松野は我々だけで探しましょう」

担当する生徒の数が少ない、私と俊輔で、とりあえず宿舎内を捜索することに。

南先生、小谷先生、田中先生は食堂で朝礼を行う。

宿舎内で松野が見つからなかった場合は外を探すことになる。