「なーにトイレで油売ってんの。早く教室に戻りなさーい」

「はーい」

二人はさっきまでの会話が嘘のように愛想よく笑って、素直に小走りでそれぞれの部屋へ戻っていった。

「はぁ……」

思わず、ため息。

自分も含め、どうして女ってこんなに面倒な生き物なのだろう。

二人が教室に入った瞬間、笑顔を作っていた顔の筋肉が、急に疲れた。

笑顔は不可欠な道具だ。

自分を美しく見せるため。

自分を守るため。

他人とのコミュニケーションを円滑にするため。

様々な感情や打算で散らかっている、汚い心を見せないための目隠しだ。

よっぽどお気楽な人でない限り、気を許している相手にだって、汚い部分を見せることはしないだろう。

安易に見せてしまうと、損しかしない。

かといって、たまに心の中に溜まった汚いものを吐き出さないと、自分を正常に維持するのが難しくなる。

そういう意味では悪口を言うのも悪ではないと、私は思っている。

誤解をしている人も多いと思うのだが、悪口を言うからといって、必ずしもその対象を嫌っているわけではないのだ。

しかし、人の悪口に限っては、絶対に陰で言わなければならないと思う。

その場に参加している者以外の人の耳に触れさせてはいけない。

「陰口は叩くな。文句があるなら直接堂々と言え」という無責任な主張をする者がいるが、間違っている。

そんなことをしてしまった日には、その場の雰囲気や自分の立場を悪くしてしまうし、悲しみと争いしか生まれない。

そう、損しかしないのだ。

「まったく、若い子は悪口の言い方が下手なんだから」

ひとり小さく呟くと、なんだか自分が一気におばさんになったような気がした。

私だって昔は、不用意に女子トイレの手洗い場や放課後の教室で盛り上がっているところを、誰かに聞かれて損をしたクチだけど。