「ちょっとトイレ行ってくる。誰か来たら、すぐ戻るって言っといて」
「はーい」
国語部屋を出て、トイレへと向かう途中の廊下。
雨音が響く音に混じり、女子トイレから女の子の話し声が聞こえた。
「……だって。ありえなくない?」
「マジありえない」
姿は見えないが、おそらく二人。
口調や声のトーンから、陰口を叩いているのだとすぐ理解した。
今は課題の時間だ。
講師として、こんなところで友達とサボって悪口を言わせ続けるわけにはいかない。
聞こえていないふりをして突入しよう。
そう決めたとき。
「そんなこと言われてさ、さやかと仲良くできるわけないじゃん」
え? さやか?
さやかって、松野のこと?
「だよねー。飯島がヒドいのもわかるけど、ちょっとあれはムカつく」
「同じ部屋であと3日も過ごすの、ほんと苦痛なんだけど」
これは参った。
幸か不幸か、どうやら悪口の対象は松野のようだ。
声の主は夜に国語部屋へ遊びに来ていた友達二人か。
聞こえてきた限りだと、松野はまず、飯島と何かあったらしい。
そしてそれに関連して、松野が彼女たちを怒らせるようなことを言ったと。
偶然だが、松野の元気がなくなった理由は掴めた。
私はわざと足音がするように歩き、トイレに近づいた。
彼女たちはそれに気付き、話をやめてそそくさとトイレから出る。
「あ、佐々木先生~」
人懐っこい笑顔で手を振る二人。
さっきまで悪い声で陰口を叩いていたのに、なんとも白々しい。
私も白々しく笑顔を向けた。



