俊輔は不思議そうな顔をして、ちらりと飯島のいる方を見た。

「飯島はいつも通りだけど……あいつ、さっそく何かやらかしたのかな?」

「何かって?」

浮気とか、それを疑われるようなこと?

例えば、松野の目の前で誰かに抱きつかれたとか。

しばらく忘れていたあのシーンを思い出して、胸がモヤッとする。

「さあ? そこまでは思い付かない」

「……あっそ」

結局それ以上話は進まないまま食事がスタート。

私と俊輔が思考を巡らせても、松野の悩みを解決することに関しては何の意味もないことはわかっている。

ここ数日ずっと一緒に過ごしてきて、多少なりとも情が芽生えている。

松野には切れ味抜群の元気な状態に戻って欲しい。

「あ、そういえば」

食事をしながら、ふと声を出した俊輔。

何か思い当たったのだろうか。

私は期待を込めて「何?」と答える。

すると彼は、ニヤッと妖しく顔を歪めた。

「昨日の肝試しどうだった?」

「……は?」

きもだめし?

「俺、そういうのダメだから実行役に回って上手く逃げれたんだけどさ。生徒たち、超ー怖かったって言ってたから」

この野郎、やっぱりわざと仕切り役に回ってたのね。

ホラーとか苦手だって知ってたから、なんとなくわかってたけど。

でも、だからって、彼女にそれを押し付けるなんて!

肝試しがどうだったかって?

「知りたいなら教えてあげる」

「うん」

私は心の中でほくそ笑み、話を始めることにした。

「あのね、田中先生が塾の帰りに、原チャリで街灯のない道を走ってたんだって――」