そろそろ昼という頃。

「あ、雨」

松野がぽつりと呟いた。

私たち三人しかいない静かな教室に、ふわんと響く。

「ほんとだ」

重森が反応する。

私は参加できるような立ち上がって窓から外を見た。

すこし先にある木々にパラパラ雨粒が落ちている。

地面はすでに隙間なく濡れているから、少し前から降っていたのだろう。

「はぁ。もう帰りたい」

松野が弱々しく漏らす。

彼女を見る重森の表情が曇る。

彼の恋心を感じ取れて、私は少し切ない気持ちになった。

「ホームシック? 今日で折り返しだよ。あと3日半、楽しいイベントもあるんだし、頑張ろう」

この暗い雰囲気を変えたくて、明るく振る舞い声をかける。

松野は泣きそうな顔で私を見た。

「合宿、ここでドロップアウトすることはできませんよね」

彼女もバカではない。

答えは「できない」だとわかっているはずだ。

この問いは質問ではなく、救いを求める声である。

昨日までのピリっとスパイスの効いた松野はどこへ行ってしまったのか。

メスのように切れ味抜群のツッコミも、氷のように冷たい視線も、今日はまだ一度も見ていない。

昨日までは、自分の目的を達するために、わりと合理的に課題を済ませてきた。

でも今日は、この教室に入ってからずっと何かを考えていて、あまり進んでいない。

「何かあった?」

私が尋ねると、松野は口は閉じたまま、目でイエスと訴える。

重森も心配して声をかける。

「誰かとケンカでもしたの?」

松野はハッとしたように彼を見た。

そしてふと表情を緩める。

「そんな感じかな」

重森は気の利いた言葉を発することができず、苦い顔をした。