「松野も、なんか元気ないよ?」

松野は暗い顔を上げ、覇気のない表情で告げる。

「元気なんていつもないですけど」

キレ味が足りない。

昨夜の肝試しで精神を消耗したのだろうか。

田中先生の話も結構怖かった。

……という冗談を言おうと思ったのだが、今の彼女に通用するとは思えず、口をつぐむ。

不機嫌というよりは、悩んでいる。

何かよくないことがあったに違いない。

重森もそれに気付いているのか、松野の様子をチラチラうかがっている。

「はい、今日は4日目の課題ね」

松野は深くため息をつき、無言でスラスラ課題を始める。

重森は心配そうに松野を見て、私の方を向いた。

彼女の悩みに心当たりがないか、ということらしい。

私が首を横に振ると、重森も軽くため息をこぼし、課題を始めた。

ため息ばっかり。

辛気くさいったらない。

調子狂うなぁ。

雲が厚くなって外も暗いし、私まで気が滅入りそうだ。

部屋にはコツコツ二人のシャーペンの音が響く。

時たまゴッゴッゴッと重森が消しゴムを使う音も混じる。

松野がため息をつくたびに重森が彼女を見る布擦れの音が小さく聞こえた。

二人とも課題に集中できていない。

昨日までは元気のよかったセミも、雨が降りそうだからか今日は大人しい。

だから余計に二人の音が耳についた。

私も自分の仕事に集中できない。