宿舎へ戻る一本道。

行きは重森と二人で心細かったが、みんなで歩いているとそれほど怖くはない。

帰りは軽い下り坂。

中腹くらいまで来たころで、田中先生がぽつりと言った。

「実はね、あの話には続きがあるんです」

生徒たちの話し声が山に吸収される中、私だけに届くくらいの小さな声だった。

「え?」

私は彼を見るが、彼は生徒たちのいる前方を向いたままだ。

「覚えてますか? 1年くらい前にニュースになった、パトカーが民家に突っ込んだ事故。その時、警官二人とその家の住人が亡くなったんですけど」

その事故のニュースなら、記憶がある。

県内では結構な話題になった。

不可解な点が多く、なかなか事故が起きた原因がつかめないと、連日連夜そのニュースをやっていた。

「僕、たまたまあの時のパトカーのナンバーを覚えてたんですけど……」

田中先生は想像を掻き立てるように言葉をそこで切った。

「まさか……」

民家に突っ込んだパトカーと、ナンバーが一致していたということ?

その考えを誘導した田中先生は、私の心を読んだようにこくりと頷く。

「突っ込まれた民家なんですけど、そのひと月前に7歳の女の子を亡くしているんです」

「え……?」

女の子って、まさか。

「タイミング的にも、僕やその警官たちが見た女の子と無関係とは思えないですよね……」

さっきよりも深く、全身が粟立つ。

私は絶句し、田中先生は満足げ。

その後はお互いに無言のまま山を下った。

田中先生。

あまり感情を表に出さないし、この仕事は向いていないのではないかと、勝手に思っていたけれど。

実はものすごく、人の心を操るのがうまいかもしれない。

そしてその力を、生徒たちのために発揮しているのでは。

人は見かけによらないのだと、改めて思わされた。