「よくないものを見てしまったのかもしれないね」
「気をつけて帰りなさい」
警官たちはそう言って、パトカーに乗って去っていきました。
僕たちが何を見たのかはわからないけど、違反切符を切られなくてよかったと、ホッと胸を撫で下ろしました。
でも、僕は見てしまったんです……。
そのパトカーの後部座席に、白い服を着た、髪の長い女の子が乗っているのを……。
生徒たちの息を飲む音が、再び部屋に響く。
腕をさすっている子もちらほら。
私と同じで、鳥肌が立ったのだろう。
「これで僕の話は終わりです」
田中先生の終了宣言に、生徒たちは安堵したような顔を浮かべた。
怪談を引きずる不気味な雰囲気を変えようと躍起になっている者、余計に恐怖心を煽ろうと自身の持つ怪談を披露し始めるものなど、様々だ。
ガヤガヤする中、南先生の号令で山小屋を出る。
そして南先生を先頭に一本道をみんなで戻る。
ペアは解消ということでいいようだ。
みんなそれぞれ仲のいい友達と歩いている。
私は田中先生と一緒に、最後尾に並んだ。
彼と行動を共にするのは、これが初めてだ。
「すっごく怖かったです。さっきの話」
話しかけるのには、少し勇気を使った。
いつも無愛想で、無表情。
得体が知れないから、ちょっと怖い。
私の言葉に、田中先生はクスッと笑った。
「でしょう?」
笑った顔、初めて見たかもしれない。
「本当の話ですか?」
「はい。もちろん」
もちろんって……本当に?
私もバイトの日は一人で人気のない道を歩く。
できればそういう体験はしたくない。
暗い近道があるけれど、ちゃんと明るい道を通って帰ろう。
心の中で、密かにそう誓う。