「俺、国語が一番苦手だっていうの、嘘だから」
重森がついでとばかりに軽く言う。
報われない恋を思ってしんみりしてたのに、一気に吹き飛んでしまった。
「はぁっ?」
「さやか先輩が国語部屋にするって言ってたから、俺もそうしただけ」
なんて不純な動機。
松野がいるから塾を続けて、松野がいるから合宿に参加し、松野がいるから国語部屋を選択。
どれだけ松野が好きなんだ。
「ま、私はそれでもいいけどね」
結果的に、それが重森のためになっているのだから。
女としては、そこまで思われる松野がちょっぴりうらやましくもある。
俊輔は私のこと、どの程度好きなんだろう。
「さやか先輩のこと、内緒でよろしく。友達にも誰にも言ってないからさ」
今になって恥ずかしくなったのか、照れた声を出す重森。
「わかってる。あんたも私と市川先生とのこと、秘密にしといてよね」
「はいはい」
いくら学ぶことは素晴らしいことだとわかっていても、勉強は面倒なものだと思う。
将来役に立つのかもわからない学問のために、多くの時間と労力を割く。
面倒な勉強でも、やろうという気にさせてくれるもの。
やりたくないという気持ちを取り払ってくれるもの。
恋の力ってすごい。
ザク ザク ザク……
サワサワサワ……
私たちの言葉数が減ると、砂利を踏む音や木々の葉が擦れる音が染み入ってくる。
俊輔や松野の話している間にかなり進んだはずなのだが、まだ山小屋は見てこない。
一本道だが曲がりくねっているため、前を歩くペアの姿も見えない。



