「俺、塾なんてすぐ辞めようと思ってたんだけど、さやか先輩がいるから続けてんの」

重森って、意外と静かに恋するタイプだったんだ。

好きな女の子には意地悪しちゃうタイプだと思ってた。

塾を続けるどころか、合宿にまで参加して。

勉強は嫌いだけど、松野と一緒にいたかったから。

接点はこのみなみ塾にしかない。

重森は話を続ける。



俺がこの塾に来たのは去年の秋ごろだったんだけど、その時さやか先輩は中3で、受験に向けて頑張ってた。

中3の授業がない日も毎日遅くまで自習してる姿を見てるうちに、いつの間にか好きになってた。

でも、まともに話しかけることもできなくて、いつもチラッと見るだけ。

高校入ったら塾辞めるのかもって思ってたけど、高校部にも通い続けてくれたから、俺も塾続けてる。

さやか先輩が勉強のモチベーション。

さやか先輩が合宿に参加するって聞いたから、俺も来た。



「ふーん、そっか」

それが合宿に参加した本当の理由なんだ。

松野が勉強のモチベーション。

昨日聞いた南先生の話を思い出す。

でも松野は飯島と……。

複雑な気持ちだ。

「でもさ、さやか先輩には好きな人がいるんだよね」

重森はちょっと笑いながら口に出した。

「知ってたんだ。飯島のこと」

「先生こそ、知ってたんだ。さやか先輩は飯島くんがいるからこの塾に通ってるし、合宿にも参加したんだと思うよ」

重森、松野、飯島。

切ない三角関係。

恋は成就するとは限らない。

私だって俊輔と付き合うまでに、いくつか失恋だってしてきた。