重森に自分のことがどんどんバレていくようで恥ずかしい。
不覚だった。
もうここでキスなんてしないようにしなくちゃ。
たとえ、したくなったとしても。
「市川先生ってさ、噂じゃ小谷先生と付き合ってることになってたから、結構ショックだった」
「えっ……」
ちょっと待て。
それは笑えない。
だって抱き合ってたし。
頭に再び浮かぶ、「二股」や「浮気」という言葉。
だからって生徒である重森に詳しく聞くのも、余裕がない女みたいで嫌だ。
「まぁ、生徒は私の存在なんて知らないわけだし、手近なところでカップリングしたくなるから、そうなるか」
と、納得したふうに言ってみる。
「……ああ、そうなんじゃね?」
重森はどうでもいい感じで答えた。
小谷先生とのこと、いつかちゃんと俊輔本人に聞こう。
俊輔は私の彼氏だもん。
昨日だって、短い時間だけど、わざわざ時間作ってくれたんだから。
「そういえばあんた、親に無理矢理この合宿に参加させられたんだっけ?」
これ以上私自身のことを暴かれるのが怖くて、話題を重森に移した。
重森は少しばつの悪そうな顔をして、黙った。
「あれ? 違うの?」
「……うん」
表情をうかがうように私を見る。
一瞬目が合ったけれど、すぐにふいっと逸らされる。
懐中電灯を反対の手で握り直し、灯りの当たる場所が大きく揺らぐ。
「先生はこの合宿だけの付き合いだから、話すけど……」
歩く歩幅とリズムを落とした重森。
私も歩幅を合わせ、少し彼に近づいておく。
「うん」
私が相づちをうって数秒。
重森はポツリと漏らす。
「俺、さやか先輩のこと狙ってんだ」
「え? 松野?」
重森は黙って頷いた。



