まったく、こんな時に何だと言うのだ。
「なによ」
先生らしく、落ち着いた声で返す。
私と二人きりの状況で、あの重森がふざけずにあえて真面目な話をしようとしているのだ。
だったらこちらとしても、真面目に聞いてやるしかない。
重森は懐中電灯で道を照らしながら、言いにくそうな感じで告げた。
「先生彼氏いるんだろ?」
……はぁ?
え、何?
恋バナなの?
「まぁ、いるけど」
「それってさ、市川先生だろ?」
「えっ……!」
バレてる? どうして!?
私たちの声以外は、砂利を踏む音と木々が揺れる音しか聞こえない。
重森は足元に注意しながら、真っ直ぐ行き先を見つめている。
「昨日さ、たまたま見ちゃったんだよね」
「何を?」
「二人がチューしてるとこ」
昨日階段で別れた時のアレか……。
まさか見ていた生徒がいたなんて。
「ええっ? うっそ! いたの?」
生徒にキスしてるところを見られたなんて……恥ずかしすぎる。
しかも、よりによって重森に。
「トイレ行っててさ。トイレの電気消して、部屋に戻ろうとしてたら足音が聞こえて。別に悪いことしてるわけじゃないけど、部屋から出てんの見られて言い訳すんのもめんどくさいと思って、隠れてたんだよね。そしたら、二人が来て……」
見たってわけか。
なんだよ隠れてないで出てこいよ。
声掛けてよ。
「うわー。見られてたんだ。あー恥ずかしい……」
顔がどんどん熱くなってゆく。
塾の先生同士のキスシーン。
15歳の少年には刺激的なシーンだったに違いない。
「先生ってさ、本当は違う塾の先生なんだよね?」
「そうだよ」
「んじゃ、市川先生に呼ばれて合宿来たんだ」
「うん」



