「これ、読んでみて。あたしもまだ読み途中なんだけど」
女子高生が主人公の、ちょっぴり切ない恋愛ストーリー。
物語の鍵を握る、隣のクラスの男の子がすごくいい。
まだ全部読み終えてないから結末はわからないけど、松野もきっと気に入ると思う。
松野は興味なんてないという顔で、パラパラ親指で紙の感触を確かめる。
「値札貼ってますよ。100円だって」
「そこは気にしないで。これは読みやすいし、面白いし、おすすめ」
裏表紙のあらすじに目を通す松野。
「恋愛小説?」
「うん。ちょっとエロいシーンもあるけど、平気?」
私がそう尋ねた時、ガタっと重森が立ち上がった。
「俺も読みたい!」
こいつ今、あからさまに“エロ”に反応したな。
中学生男子め。
それを松野が鼻で笑い、彼をスルーするように答える。
「子供じゃないんですから、平気ですよ」
「冒頭だけでも読んでみて。ダメそうなら返してくれていいから」
「わかりました。ありがとうございます」
松野は本を筆箱の横に置き、課題の処理を再会する。
「えー、ねえ、俺は?」
重森が不満げに訴える。
「はいはい。松野の次にね。まったく、エロって聞いた瞬間に飛びついて」
「そりゃあ、男ですから」
開き直って胸を張っている。
松野が呆れた顔で彼をチラ見。
「ていうか、普通の小説でもエロシーンあるの、案外多いんだよ」
中学生男子の妄想脳を満足させてくれるほどのものではないかもしれないけれど。
……とは言わないでおく。
「へー、そうなんだ。じゃあ俺にも読めるかも」
まさか、エロで釣れるとは。
15歳の少年にとっては、何よりのモチベーションなのだろうけど。
でも女の子だって、興味はあるもんね。



